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株式会社ニコン
(2022.5)
半導体装置事業部 開発統括部 中村 大輝
株式会社ニコンの中村大輝と申します。SEAJ Journalをご覧の学生の皆様に向けて、私のキャリアと仕事内容をご紹介します。社会人生活や半導体業界がどのようなものか、イメージを具体化させる手助けになれば嬉しいです。ニコンと言えばカメラのイメージを持たれる方が多いと思いますが、『光学』と『精密』という2つのコア技術を用いて、双眼鏡、顕微鏡、測量機、眼鏡、光加工機、ロボットなど様々な製品を提供しています。私が開発に携わっている半導体露光装置もその中のひとつです。
この業界にはいったきっかけ、動機
私はロボット工学の研究室に所属し、人間の手姿勢をComputer上で再現する、ロボットハンドの応用研究を行っていました。C++でコードを作成して評価を行い、レポートにまとめて教授に報告する、といった日々を過ごしていました。就職活動が始まって、専門分野方面の企業を探そうかと思った瞬間もありましたが、工学部時代のエンジン設計・製図講義が非常に大変な授業でしたが楽しい思い出だったことから、メカエンジニアになって製品を作ってみたいと漠然と考えるようになりました。しかし、これだ!という具体的な製品になかなか出会う事ができず、悩みながら様々な業界のセミナーに参加していました。そんな中とあるセミナーで半導体露光装置を紹介しているニコンと出会いました。半導体露光装置は、『史上最も精密な機械』と呼ばれ、最先端の装置は世界で数社しか作ることができないと知りました。当時、全く知識のなかった私ですが、説明を聞いて、社会にとって必要不可欠なすごい装置なのではないか?と興味を持ちました。また技術の極地点のような露光装置開発の世界を経験してみたいと思いました。幸運なことに研究室の先輩がニコンで働いていたため、お話を伺う事ができました。優しく丁寧に説明してくださる姿が一緒に働きたいと思わせてくれる決め手となり、入社を決めました。
仕事内容、働き方、日常のできごと
次に、配属後キャリアと現在の仕事内容についてご紹介します。1か月の新人研修後、私は『技術研修係』に配属されました。水戸製作所にある生産技術部で社内の生産設備・技術を開発しながら、ものづくりの基礎を学んだ後、2年後に再配属される、社内でも一風変わった配属でした。研修中は目の前の与えられた仕事をこなすことで精一杯でしたが、それでも2年間で図面の書き方、材料知識、加工方法 etc....数えきれない程の多くのことを学びました。メカエンジニアとして現在の仕事を進めるうえでの本当の基礎となったと思います。
ところで、私は今年入社10年目になります。3年前には新人のOJTを担当しました。OJTとして指導していて、新人の頃はひとつの業務から多くの成長の糧を得る事ができるが、キャリアを重ねると業務経験は増える一方で、そこから得られる学びは少なくなってしまう事に気づきました。年月を経ても成長を続けるためには、未経験の分野にこそ積極的に関与して多くの学びを得ようとする姿勢が大切だなと、仕事を覚えようと一生懸命な新人の姿にハッとさせられたことを覚えています。
研修後は半導体装置事業部に再配属となり熊谷製作所に移りました。半導体装置事業部では、現在に至るまでウェーハステージの設計開発を担当する部署に所属しています。露光装置はレチクルと呼ばれる原版に書かれた回路パターンをウェーハに焼き付ける装置です。何層にもわたる回路パターンをウェーハ上に積み重ねることでICチップは形成されますが、微細なパターンを形成することがICチップの小型化、半導体製品の性能向上につながります。
そんな微細化の手段の一つに液浸露光技術があります。投影レンズとウェーハの間を超純水で満たして屈折率を上げて解像度を上げる方法です。私は主にウェーハステージ周りの液浸露光技術の設計開発を担当しています。露光装置のステージ位置決め精度はよく戦闘機に例えられ、『マッハ2.0で飛行しながら目標軌道からのずれを±0.5um以下に抑える』精度が必要と言われています。この仕様を満たすためには、如何に正しくステージを動かすかが非常に重要となり、あらゆる外乱との戦いとなります。液浸露光技術は非常に厄介で、気化熱変形、水回収振動など、どのように外乱を抑えて必要な機能を成り立たせるか?日々頭を悩ませています。
最近はリモートワークも増えましたが、クリーンルームでの実験や組立現場のサポート対応などの業務もあるため、週3日程度は出社しています。複雑・大規模な露光装置は一人で作ることは当然できません。チーム制で助け合いながら業務を進めています。一人で頭を悩ませているくらいなら、出社してチームの仲間に相談すると難しい問題も解決の糸口が掴めたりするものです。また、フレックス勤務のためプロジェクトの進捗にあわせて、自分の裁量で働くことができる環境です。技術研修係として配属された同期と始めた登山が趣味として長く続いています。連休に有給休暇を繋げて北アルプスへ縦走登山に行ったりしています。
仕事のやりがい、厳しさについて
配属当初は半導体業界や露光装置の専門用語が分からず議論についていけないことも多々ありました。そんな時は、業務の合間をぬって社内向けの製品資料や用語集を調べていました。なるべく分からないまま放置しない、自分なりの言葉で説明できるように正面から向き合おうと意識していました。仕事を進めるうえでは専門外の人と話す機会が非常に多いです。専門用語を多用して説明しがちになりますが、相手に誤解なく理解してもらえるように説明するためには、自分の言葉で説明できるようになることが重要だと思って意識して話すよう心掛けています。
メカエンジニアとして製品開発するうえでの難しさは、厳しい仕様のため評価・解析してみないと分からない事例がとても多いことです。また苦労して得られた実験結果が正しいのか?適切に見極める能力も求められます。誤った方向に検討が進んでしまうと、最悪の場合、装置が稼働してから問題発生、お客様先でのトラブルへと繋がってしまいます。
誤った理解をしないためには、基本的な原理・原則を理解する事が重要です。勉強のため学生時代の教科書を持ち出す事も良くあります。社会人になってから購入した教科書も多数あります。そうやって地道に積み上げた解析結果を着実に設計に反映することが性能向上につながると感じています。色々考え始めると装置は複雑になりがちですが、なるべくシンプルな構成になるよう意識しています。まだまだ設計者として実力不足ですが、コスト、使いやすさ、耐久性、作業性などバランスの良い設計ができるようなりたいです。
それでも自分の設計したユニットが完成して現物を見たときの感動は大きく、設計意図通りに動作して厳しい露光装置の仕様を満足した際の達成感はひとしおです。仕事の大きなやりがいになっています。
この業界に入ってよかったこと、学生の皆様へ
自動運転、IoT、AI、5Gなど社会をより豊かにするため様々な技術が生み出されていますが、これら技術を支えているのが半導体製品です。その半導体を作り出している半導体製造装置は社会の発展を根幹から支えている装置です。半導体製造装置を通して社会に貢献しているという誇りを持てる事は、この業界に入ってよかったことだと思います。今後、半導体の需要は益々高まり続け市場の拡大が期待される業界です。昨今ニュースでも半導体業界の話題が取り上げられることが増え、活気のある業界であることは間違いないと思います。こんな業界に身を置いている私も日々成長を続けていきたいという思いで業務を進めています。しかしながら、今回この原稿の執筆依頼をうけて改めて振返ってみると、私自身が半導体製造プロセス・装置について、まだまだ勉強不足だなと痛感しました。複数の製造工程を積み重ねて半導体は完成しますが、工程を繰り返す事がひとつの特徴だと思います。自社の装置を通った後に別の装置を通ってまた戻ってくる、他の工程とのつながりが非常に重要です。前工程だけではなく後工程やウェーハ製造等さまざまな工程を知る事が自社の装置に求められる仕様の理解につながると思いました。お客様が真に求める要求が分かれば、どのような装置設計をするべきか?考え方や手段も変わってくると感じました。業界情報のキャッチアップに努めて自身の成長へ繋げていきたいなと思います。
最後に、これから就職活動を始める学生の皆様へメッセージを書かせていただきます。よく言われることですが業界研究と同じくらい自己分析が大切です。自分が何を大切にするか?熱意を持って取り組めるか?分析できていれば知らない業界でも一歩踏み出す勇気になります。半導体製造装置業界は馴染みのない業界かもしれませんが、『ものづくり』が好きな人、設計通りに機能を満たした際の達成感を味わいたい人、世の中をリードする最先端技術に携わりたい人、社会に貢献している誇りを持って仕事をしたい人におすすめです。半導体業界とニコンに興味を持ってもらえれば嬉しいです。