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キヤノン株式会社

光学機器事業本部 半導体機器134設計室 小向 啓文

この業界に入ったきっかけ

私が半導体業界と出会ったのは、キヤノン入社決定後の配属先選定面接の場でした。キヤノンと言えば、一般的にはカメラや複合機の企業という印象が強いかと思います。当時の私も、多くの方々と同じように、キヤノンに対してそのような印象を抱いていました。

私は大学、大学院で情報工学を専攻しており、特に研究室では、画像やコンピュータグラフィックスといった分野の研究に取り組んでいました。それらの経験や、研究室の教授が元キヤノン社員であったというご縁もあって、漠然とキヤノンであれば自身が培った画像系の知識を活かすことができるのではないかと考え、就職先としてキヤノンを選びました。
一方、学生時代には経験したことのない、新しいことに挑戦したいという気持ちも同時にありました。そのような旨を、入社面接や配属先選定面接の場で述べたところ、「産業用機器を開発している部署はどうか」という提案がありました。これが私と半導体業界との出会いです。最初にその提案を受けた時には、キヤノンがこのような産業用機器分野の事業を手掛けている印象がなかったため、少し驚きました。恥ずかしながら、その提案を受けるまでは、私は半導体業界のこと自体をほとんど知りませんでした。しかし、詳しく話を聞くうちに、未知の分野ながらも自身の知識や能力を発揮することができそうだと感じ、この分野に進むことを決めました。

仕事内容、働き方、余暇の過ごし方

私は2014年に入社以来、半導体露光装置のソフトウェア設計部門に所属しています。半導体露光装置は、半導体ウェーハに対してナノメートル単位の回路パターンを焼き付ける、半導体デバイスの製造工程でも非常に重要な役割を果たす装置です。原理としては、レチクルと呼ばれる回路パターンの原板に対して光源から光を照射し、その像をレンズで縮小して、ウェーハに縮小された回路パターンを転写するというものです。半導体露光装置は、様々な駆動部を精密に、かつ高速に制御するための複雑で巨大なシステムから構成されています。そのため、一口にソフトウェアと言っても、装置の操作部、データ処理部、駆動制御部等の様々な階層から構成されており、その中でも私は、他のソフトウェアを動作させるための基盤となる、オペレーティングシステム(OS)やミドルウェアと呼ばれる階層のソフトウェア設計・開発を担当しています。キヤノンには半導体露光装置のラインナップが複数ありますが、その全てに共通して搭載される、基幹となる部分です。

半導体露光装置「FPA-6300ES6a」
半導体露光装置「FPA-6300ES6a」

私の働き方は、基本的に定時に出社して働くという一般的なものです。しかし、昨今のコロナ禍の状況から、機材や実機を使用しないような業務に関しては、自宅からテレワークを行うという選択もできるようになりました。コロナ禍は私たちの働き方を大きく変えました。社内外の打ち合わせは、そのほとんどが自席でのリモート開催へと移行しましたし、出社を前提としない状況においても作業効率を向上させるIT ツールの導入も、以前に増して加速し、更なる活用の機運も高まっています。
今後は更に、時間や場所に縛られない働き方が広がっていくのではないでしょうか。

平日の帰宅後や休日には、趣味であるピアノ演奏を楽しんでいます。基本的には1人で黙々と練習するような趣味ではありますが、年に数回はSNSで集まった仲間が開催する演奏会や、大学時代のサークルのOB会といった場で曲を披露しています。
残念ながら2020年はそれらが全て開催中止になってしまったため、練習した曲を披露する機会はありませんでしたが、いつかまた披露できる機会が来ると信じて、コツコツと練習を続けています。

演奏会の様子
演奏会の様子

仕事のやりがい、また厳しさについて

私の担当する半導体露光装置のOS やミドルウェアに求められていることは、高い安定性とパフォーマンスを継続的に提供することです。安定性とパフォーマンスが高いソフトウェアを開発するのは当たり前だと思われるかもしれませんが、こと半導体露光装置といった産業機器においては、その要求されるレベルはコンシューマ向け製品と比較して段違いです。
半導体デバイスはその特性上、生産性が非常に重要です。
半導体デバイスを製造するために必要な、クリーンルーム等の設備を維持するためには莫大なコストがかかります。そのため、24時間稼働で1つでも多くのデバイスを生産し続けなければ、利益を上げることができません。そういった厳しい条件のもとでお客様に使っていただく装置ですので、その露光装置の不具合で、お客様の生産を停止させるようなことがあってはなりません。そして、万が一何らかの問題で装置が停止してしまった際にも、可能な限り速やかに復旧し、お客様の生産への影響を最小限にしなければなりません。お客様の生産を止めることのない装置にするために、日々頭を悩ませています。
また、パフォーマンスの面でも同様のことが言えます。露光装置が時間当たりに処理できるウェーハ枚数を1枚でも多くし、お客様の生産性向上に貢献することが強く求められています。
そして、その要求に応えることが製品価値を高め、自社の利益にも直結するのです。しかし、装置のパフォーマンス向上は、一朝一夕に成るものではありません。光学設計、メカ設計、それを制御する電気設計、そしてソフト設計と、露光装置を構成する要素全ての設計において、それぞれの分野での地道な性能向上を継続し続けることが必要です。例えば、私が担当するミドルウェアの分野では、マイクロ秒単位の処理速度向上に苦心しています。たったマイクロ秒と思うかもしれませんが、ウェーハを1枚処理する間に何百回も実行される処理であるため、長期的にみると、それが1時間当たりウェーハ何枚分といった差となって装置のパフォーマンスに影響します。

もともと私は細かいところを考えるのが好きなので、どうやったら止まらない装置にできるか、どうやったら速やかに復旧できるか、そしてどうやったらよりパフォーマンスを上げることができるかという点について深く考える仕事は楽しく、またやりがいを感じます。もちろん、こうした高いレベルの要求に応え続けていかなければならないということは、大きなプレッシャーを感じることでもあります。しかし、周囲にはあらゆる分野のプロフェッショナルが大勢いて、いつも私をサポートしてくれます。そういったプロフェッショナル達と共に考え、悩み、そして最終的に求められる性能を持った製品が完成したときには、大きな達成感を得ることができます。悩んで悩みぬいた時間が長ければ長いほど、それが形になったときの喜びもひとしおです。

ソフトウェア実験室
ソフトウェア実験室

この業界に入ってよかったこと、今後の抱負

今や半導体は、皆さんが持っているスマートフォンや家電製品といった電子機器はもちろん、自動車やプラント等の制御にも使用され、我々の生活によって欠かすことができない存在です。特に近年はIoTの発達により、その言葉(Internet of Things)の意味する通り、あらゆるモノに対して半導体が搭載される時代に突入しており、今後も更に需要が増えることが予想されています。

こういった先端技術を通して、更にそれが世に出回る前の最先端の位置から社会を見渡すことができるというのは、この業界の大きな魅力であると思っています。想像してみてください、自らが手掛けた装置を使って最先端の半導体デバイスが製造され、それが最先端の製品に搭載されて世の中に出回るのです。もしかしたらそれは、スマートフォンの登場のように、社会の在り方を変革する製品かもしれません。そういった、将来の最先端を創っていく製品に関わっていると考えると、この業界の仕事は非常にやりがいがあると感じます。

もう1つこの仕事に対して私が魅力を感じるのは、未知との遭遇です。私は入社以来ずっと半導体露光装置に関わっていますが、いまだにその複雑で巨大な装置の全容を理解することはできていません。日々新たな発見がありますし、技術の進化も目覚ましいものがあります。そういった未知の領域、そして未知の課題に対し、いかに理解を深め、いかに解決していくのかを考えるというのは、仕事を進める上での醍醐味なのではないでしょうか。今後も、こういった未知との遭遇を楽しみつつ、将来の最先端を創る仕事に誇りを持って、半導体業界の発展、ひいては社会の発展に貢献していきたいと思います。

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