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株式会社荏原製作所
(2020.12)
精密・電子事業カンパニー 技術統括部 開発部 開発二課 社本 光弘
この業界に入ったきっかけ・動機
私がこの業界に入ったのは、私の少し変わった就職活動がきっかけです。
当時、私は電気化学という分野を専門とする博士課程の学生であり、電気エネルギーによって無機ナノ金属膜がどのように形成されるのか、その過程を解明する基礎研究を主に行っていました。
ご存じの方も多いと思いますが、博士課程の学生は、学位取得後の進路として、民間企業に就職するか、あるいは、任期付き研究員として大学に残り、オリジナルの研究分野を築いていくか、のいずれかを選択します。
私も例に漏れず、学位取得の目途が経った頃、この選択に迫られていました。
大学では基礎研究色の強い研究室に所属していたことから、次は民間企業で世の中への貢献度がより明確な工業製品の開発に携わりたい、と強く考えていました。しかし、日本では未だ、博士の採用や応募について明示している企業は限られており、就職活動の方法から試行錯誤することになりました。
結果として、私が行った方法は、自身の研究分野と企業がもつ技術のマッチング性を高めるため、電気化学、特にめっき(電解析出)の技術特許を出願している企業をリサーチし、特許や事業内容に魅力を感じたら、直接人事宛てにメールを送り、アプローチする、というものでした。
こうした少し変わった就職活動の中で、水処理ポンプのイメージが強い荏原製作所が、半導体チップの微細配線を形成する「めっき装置」などの半導体製造装置にも事業展開している、ということを知り、そのギャップと意外性に惹かれ、半導体製造について調べるようになりました。
集積回路の形成の中で「めっき」の技術が使われているという事実は、基礎研究をベースとしていた私にとって、とても新鮮であり、今や人々の生活を支えるさまざまな情報・デジタル機器を構成するうえで無くてはならない半導体の製造に、自身の培ってきた知識やノウハウを生かし貢献したい、と考えるようになったのが、私がこの業界に入ったきっかけです。
その後、荏原製作所の人事部に連絡したところ、すぐにレスポンスをいただき、無事、入社することができました。イレギュラーな応募方法でも、快く柔軟に対応してもらったことは、現在もダイバーシティを推進している荏原製作所の社風ならではと考えています。
仕事のやりがい
昨年度までは、半導体製造用のめっき装置を開発する部署に所属していました。
その部署では、数値解析シミュレーションを活用し、めっき処理方法やめっき槽の形状を考案することで、設計開発につなげる業務を主に行っていました。
半導体チップ製造では、基板を分割化しチップとして製品化するとき、電気信号強度などの品質に個体差がでないよう、分割前のめっき処理の段階から、基板上に均一にムラなく成膜する技術が求められます。
多品種少量生産である半導体製造の中で、いかにムラを抑えためっきができる方法や装置構成を考えられるか、が重要になります。
この補助を行うのが、半導体めっきにおける数値解析シミュレーションの役割です。
現実に起こるめっき現象を、数学モデルで再現するためには、電気化学の他、物理化学の専門知識も必要不可欠であり、解析で最適化された部品や槽の形状が実際に設計可能かどうかを考え、設計担当者と綿密にコミュニケーションをとることが重要です。
実際の結果と解析結果が大きくかけ離れている場合には、実際の装置を調査することも非常に重要です。
特に開発段階の試験機では、実機と設計図面との間に乖離が起こる可能性もあり、少しの違いでも、実際のめっき現象に大きく影響していることがあるためです。
製造プロセスや製造世代の変わるスピードが速い半導体業界では、新しいコンセプトの装置をお客様の工場に導入する場合に、実機による性能検証が始まるより前から、お客様に仕様や性能をご提示し、交渉していくケースも少なくありません。
そのような場合にも、数値解析シミュレーションであれば、設計図面が必要なことに変わりはありませんが、部品発注・製作・装置組立・動作検証、と実際の試験を行うための長期にわたる準備期間をショートカットし、いち早くお客様に技術的な評価結果をご提示することができます。
お客様との交渉が始まった初期の段階では、導入予定の装置の仕様や性能を十分にご納得いただくため、日々、追加の解析結果を求められます。
少数の人員で対応するのはとても大変ですが、最終的にご納得いただけたとわかったときは、ホッとすると同時に仕事のやりがいを感じられる瞬間でもあります。
入社7年目の今年からは、新たに新設された「開発部」という部署に転属しています。半導体業界に限らず、新たな事業や市場を開拓し、着目した技術分野の基礎試験から製造開発までの地盤をつくるのが主な担当業務です。
取り扱う分野も大きく変わり、携わる分野も多様化したことで、一から勉強することは多いですが、市場を意識しつつ、いままでに世にないものを一から作り上げる、という点で非常に面白い仕事と感じています。
まだ、組織も小さく、少人数のため、自由度が増した反面、自分が動かない限り何も進まない、というプレッシャーもあります。
ひとつの試験機を制作し、評価していくにも、試験の計画から、機械設計や電気制御系に関する業務まで、すべて自身が主導となり、設計依頼から部品の選定・発注、組み立てまで行う必要があり、わからないことや躓くことも多いです。
しかし、わからないことが多ければ多いほど、面白さを感じることができ、また多くの経験豊富な先輩社員の方々からサポートしてもらえる恵まれた環境にいることから、機械メーカーの社員として設計知識や現場対応力も身に着けることができていると感じています。
昨今のコロナ禍の影響を受け、荏原製作所でも在宅勤務制度を取り入れた勤務形態がスタートし、私自身も働き方が少し変わってきています。
いままで残業時間に行っていた試験コンセプトや全体計画の見直し、技術アイディアの考案など、少し頭をクールダウンしたり、俯瞰したり、あるいは、考えることに集中したい業務を在宅勤務時に割り当てることで、切り替えを行うと同時に、業務効率化を試みています。
休日は主に自然公園、山道、動植物園などに赴き、写真撮影に勤しんでいます。旅行に行き、自分が見たことのない街や風景を撮影するのが好きなのですが、今年はコロナの影響により行けておらず、残念な気持ちでいます。どんなに半導体技術が進んでも自然が与える感動だけはリモート化できない、技術を取り扱う仕事をしているからこそ、自然科学に対する畏敬の念は忘れないようにしています。
この業界に入ってよかったこと
5Gが本格的に稼働するなか、半導体は身の回りのコンピュータからスマートフォン、家電などその他の多くの電子機器のすべてをネットワークでつなぐIoT技術や、その先のDX実現において欠かせない重要な部品です。
しかし、その部品ひとつの製造に何百という工程があり、最先端の技術や複雑な物理・化学現象を駆使し、作られていることはあまり知られていません。
入社してすぐ、お客様の工場で装置を立ち上げていたとき、先輩社員の方から「自分たちはサプライヤーであると同時に、この装置で作られた半導体チップのエンドユーザーでもある」と言われ、その言葉を受け、私自身も持っているスマートフォンをみつめながら、とても不思議な気持ちになり、感動したのを今でも覚えています。
いまや誰もがもっている製品に関わっている実感を得られるのが、この業界の良さだと感じています。
また、半導体の製造工程やそれを支える技術は幅広く、少し視点を変えると、まったく知らなかった世界を覗くことができます。
工程によっては、多種多様な物理と化学が絡み合っているため、幅広い知識があって初めて現象が理解できることもあり、多くの知識と経験を身に着けることができる業界だと考えています。
これから就職活動を控えた学生の皆さんの多くは、きっと「自分に向いている業種は何だろうか?」と自分に問いかける場面がくると思います。
実は、入る業種や携わる仕事を選ぶことよりも、どんな仕事でも自分が面白いと感じ、興味を惹かれる方向に発展させていく力を身に付けること、が何より大事だと思っています。
そのとき、周囲の方々の協力はもちろんのことですが、軸となるのは、「こんな風に仕事がしたい」、「こんなことができるようになりたい」、や「わからないことを知りたい」という、向上心と知的好奇心に他なりません。
身の回りにも溢れている「わからない」を皆さんと共に享受し、技術の発展に貢献していける将来を楽しみにしています。